福本作品の隠れた?名作
福本伸行作品といえば麻雀などのギャンブルもの、その中でも取り分け有名なのが以前に紹介した『カイジ』だろう。
今回はそんな福本作品からある意味傑作とも言える『最強伝説 黒沢』を紹介する。『最強伝説 黒沢』はどんな作品かとジャンル分けするのは難しいが、冴えない中年男のエピソードを中心としたギャグ・コメディだ。
『カイジ』などのギャンブルを中心とした非日常を描く作品からしたら地味に感じるかもしれないがこれがなかなか面白い。
あらすじ
黒沢は44歳の独身土木作業員でその生活はパッとしない。そんな男が44歳の誕生日に誰からも祝われなかったどころか、自分以外の同僚で飲み会をしていた帰り道に遭遇してしまう。そこで「人望が欲しい」と熱望するところから物語は始まる。
タイトルの「最強伝説」などから察するかもしれないがこの黒沢、なかなかにイタい男だ。まさに厨二病がそのままおっさんになったような拗(こじ)らせた性格をしている。しかも素人童貞だ。
そんな黒沢は人望を得るべく行動するのだが悉(ことごと)く空回り。有名な「アジフライ事件」を始め、周りを巻き込んでいくことになる。
いたかもしれないもう一人の自分
こんな黒沢を心から笑えるだろう?と言われれば少し戸惑ってしまう。だって、こんな未来はもしかしたら自分が歩むはずだったかもしれないからだ。
中年になって、カネなし友なし女なしこんな未来を絶対に送らないとは限らない。
事実、作者の福本氏自身も「いたかもしれないもう一人の自分」として黒沢を描いたようだ。
「金が欲しい」「モテたい」こんな欲望を抱えたまま何者にもなれず大人になってしまった自分を考えると鳥肌が立つような思いだ。
帰ってきた黒沢!
そんな黒沢が『新黒沢 最強伝説』として帰ってきた。
今度の黒沢は昏睡状態から8年の時を経て目覚めて、なんとまたその勘違い・思い込みから無職、そしてホームレスとなってしまう。
ここで好きなエピソードを一つ紹介すると5巻に登場する傘に関するエピソードだ。黒沢達ホームレス集団はある日、牛丼が無性に食べたくなったがお金がない。そこで、神社などで小銭を集めるが集まったのは二百数円。到底、数人分のホームレスが牛丼を食うには資金不足。なんなら牛丼いっぱいにも届かない。
そこで、黒沢達は二百数円を元手にビニール傘を補修してそれをサラリーマン達に売り、なんと4400円ものお金を得る!どんな工夫をして傘を売っていったのかぜひ楽しみに読んでもらいたい。
今回も思い込み全開、中二病全開の黒沢だがホームレスたちとの工夫を凝らした七転八倒がおもしろい。
まずは『最強伝説 黒沢』を、そしてその後は『新黒沢 最強伝説』を読んでみてほしい。全男性必見です。